【2021/1/8市会臨時会本会議】黒川勝市議(自民党・金沢区)討論文字起こし

 自由民主党横浜市会議員団・無所属の会の黒川勝です。会派を代表して市第100号議案に反対の立場から討論をいたします。

 新型コロナに席巻された昨年は、感染症や重症患者を増やさず、医療を崩壊させない一方で企業の倒産を防ぎ、雇用や生活を守るという難しい舵取りを政治が迫られた一年でした。闘病中の方へのお見舞い、亡くなられた方へのお悔やみを心より申し上げます。今も現場で闘う医療関係者やエッセンシャルワーカーの皆さまには感謝しかありませんし、営業自粛・売り上げ激減の事業者の皆さまには申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 そのような中、マスコミは「緊急事態宣言が遅い」「生ぬるい」と政府を批判し、閑散とする飲食店主の声、混雑する繁華街を連日報道しています。

 発信力のある市長や知事は客観的なエビデンスに基づく情報を冷静に市民に伝えるようお願いいたします。

 IRをめぐる議論も一部のマスコミからの批判や声の大きな勢力に惑わされず、冷静にその中身を議論し、様々な懸念事項をどう解決、払拭するのかを見極めていくことが大切で、軽々に市民に判断を委ねるような問題ではありません。あらゆる角度から議論を深め、代表民主制のもとで、議会が結論を導いていくべきと私は考えます。

 「横浜のIRのデザインは見ていないが、間違いなくカジノは真ん中になる」そう書かれた新聞の情報を信じた人が住民投票で賛否を投ずるというようなことを私たちはさせてはいけないのです。

 これまで横浜市会では平成26年にIRに関する調査費が予算計上されて以来、議論を重ねてまいりました。昨年の5月に私は5年ぶり二度目の建築都市整備道路常任委員会の委員長を拝命しました。山下ふ頭に計画している統合型リゾートを担当する委員会への再登板でしたが、1月に国の基本方針が発表されるとの報道が半年以上遅れ、我が党は公明党とともにコロナ禍での準備作業の延期を市長に申し入れました。感染症対策やコンプライアンスなどが追加された国の基本方針案は10月になって示され、横浜市の実施方針案も8か月遅れとなりました。実施方針案は横浜市が目指すイノベーションIRとして様々な施設の規模や概要、依存症や犯罪対策、地域への貢献や協力体制、費用負担や契約事業者との役割分担など、横浜市の考え方が細かく示されています。これらを踏まえて事業者からの事業提案募集を開始し、最も相応しい提案をした事業者が横浜市のパートナーとなり、区域整備計画を策定して国に提出し、国から認定を受ければ整備事業がスタートします。

 私は委員長として、IRに関しては審議案件がなくても検討事項や市民意見など報告できることは常に議題とし、委員のみなさんと議論できるよう当局に求め、それを実践してまいりました。今回横浜市から示された実施方針案では、概要版や募集要項の骨子、景観デザインノートも委員会に示され、この報告案だけで予定外に一日延長して5時間半も議論を尽くしました。それぞれの委員からは背面調査、接触ルール、履行保証、横浜にもたらされる利益、県警との連携、地域との共存などの議論があり、賛成か反対かといった単純な二項対立ではなく、IRの関連法案や横浜市の状況を踏まえた財政や都市経営の長期的な展望も含めた真剣な議論でした。

 今回の、今日のこの傍聴席には、お会いしてお話を伺った方、FAXをくださった方もいるかもしれませんが、私たちは市民の代表として、賛成・反対、いずれの立場の人たちからも様々な場面でご意見を伺い、知見を深め、そして判断をしてまいります。今回の住民投票条例制定の議案も本臨時会で提案をされ、市長から意見表明がされ、一昨日は議案関連質疑、昨日は政策総務財政常任委員会の意見陳述も含めた長時間の審議、そして討論ののちに採決です。例え採決の結果が否決でも、IRの議論は決して終わりではありません。横浜市会は市長意見にもある通り、代表民主制が健全に機能している議会として今後も議論を進めてまいります。

 私たちは決して一律に住民投票を否定しているわけではありません。しかし、いま、施設の詳細が示されないのになぜ、賛否を問う住民投票を行うのでしょうか。まさかとは思いますが、素晴らしいIR施設の提案が提出されると賛成者が増えてしまうと思っているのでしょうか。横浜の依存症対策の詳細が発表されると市民の不安は減るかもしれません。その前に住民投票で潰してしまおうというのでしょうか。カジノの広告宣伝は区域外では国際空港などでしか行えません。青少年の目に触れないのだと広まる前に住民投票をしちゃおうということなのでしょうか。

 私は以前にカジノに反対をする女性のグループと対話をしました。気軽に入れるパチンコ店、有名俳優やお笑い芸人を使って朝から深夜までテレビCMで射幸心をあおるボートレース、競馬、競輪、オートレース、宝くじと比べてIRの広告がいかに規制されているかを話すと皆さん驚いていました。ゴールデンタイムに若者に人気のアイドルがスクラッチくじで「当たった」「外れた」と大騒ぎするテレビ番組がありますが、このような番組こそが青少年に悪影響があると話すと頷いてくれました。一方で公営ギャンブルの収益は国際貢献、市民ボランティア、社会福祉事業、地方自治財源、災害復旧援助などに活用されており、IRにおけるカジノ事業の給付金も福祉、子育て、医療、教育、公共施設の更新など、豊かで安全安心な市民生活をより確かなものにするための財源に重きを置いて活用するとされています。

 また今回の署名活動の時期にも私は疑問があります。署名を集めた9月以降、コロナ禍の中で20万筆に近い署名を集められたご苦労には敬意を表し、重く受け止めます。その後、各区の選挙管理委員会の審査を経て12月23日に市長に条例制定請求書が提出されました。コロナで大変な年末年始、執行部も議会局も本臨時会の準備に追われ、関係する議員のみなさんもお疲れ様でございました。もしも条例公布、60日以内に住民投票となれば、緊急事態宣言下、コロナウイルスが飛び交う中、賛成・反対それぞれの立場の議員が市民に理解を求めて横浜中を奔走することになります。さらには選挙管理委員や自治会町内会の役員さんたち、区役所をはじめ、多くの職員の負担となり、投票事務には10億円以上の税金が使われます。

 昨日も議論がありましたが、今回の署名活動を扇動した皆さんは、本当にこのようなことを望んでいるのでしょうか。もしも、どうせ議会で否決されるのは分かっているけど、反対運動をアピールし、市長や私たちを悪者にするためにはとりあえず署名活動をおこない、否決されたら一部のマスコミとともに批判の大合唱を繰り広げよう、そして次の市長選挙や総選挙につなげようなどと思って署名活動を展開していたのなら、まさにこれは政治利用であり、私は市民も議会も冒涜されたという言葉を使わざるを得ませんし、署名をしてくれた市民にも大変失礼な行動と言わざるを得ません。

 一昨日には「20万筆の直接請求は一つの考えというのは冷たい言葉」とありましたが、IR横浜推進協議会としてIR誘致を推進している横浜商工会議所や横浜青年会議所など14の経済団体の会員企業数は約1万数千社。従業員やその家族もいます。20万筆も一つの考え、IR誘致を推進している人たちの声も一つの考え、説明不足だと感じている多くの市民も一つの考えであり、それぞれに重く、だからこそ市長は今後も議会での健全な議論を求めているのではないでしょうか。

 昨年11月、私は所謂「大阪都構想」住民投票の投票日前日の大阪市に行きました。こちらは法的拘束力を持つ住民投票ですが、大阪市民から声を聞くと、市民の理解が浸透しているとはとても思えませんでした。それでも連日テレビCMが流れ、各政党の宣伝カーが大挙して大阪に入り、それぞれの陣営がかけた費用も億単位と聞きました。ちなみにこの住民投票の正式名称は「大阪市を廃止し特別区を設置することについての投票」でしたが、多くのマスコミが大阪市廃止ではなく、「大阪都構想」と書いているのも奇妙に感じました。

 結果は僅差での反対派の勝利でした。すべての住民に信を問う、聞こえはいいようですが、理解不足のままでの住民投票の危うさというものをまさに実感してまいりました。

 横浜市の市民説明会参加者でのアンケートでも、説明会で理解が深まった人は約4割で、昔のカジノのイメージや誤った知識の払拭は簡単ではありません。多くの政策には賛成と反対の意見があります。両者の主張に耳を傾け、課題は一体どこにあるのか、解決のために何ができるのか、議論をまとめ政策を練り上げていくのが私たち議会であり、様々な市民から負託を受けた私たち横浜市会議員はその職責を果たすために議会に集うのです。

 傍聴者やマスコミのみなさん、中継でご覧の市民の皆さん、どうか私たちの議員を、そして議会を信じてください。法律で定められた区域整備計画の議決、市民に向けた公聴会の開催はもちろんのこと、このIRが横浜市になにをもたらすのか、地域との良好な関係が築けるのか、今後も議論を尽くして結論を導き出すとともに、市民への説明、不安を払しょくする機会は引き続き市長に求めてまいります。

 文明開化の時代にタブーとされていた牛肉食を牛鍋やすき焼きとして日本の食文化に定着させたのはこの横浜でした。ちょんまげから散切り頭に切り替えた理髪店の発祥の地もこの横浜です。明治の初期、横浜の床屋さんたちが日本人に合う、外国人から見ても違和感のない髪型を流行らせ、そして全国に広まっていったのです。戦後には本牧の米軍基地の周辺に集まる若者たちが欧米の新しい音楽に出会い、横浜から若者文化が次々と生まれました。今ではバンド演奏をする若者を誰も不良とは呼びません。ロックミュージックは日本社会に定着しています。これまで日本になかった文化を日本独自の新しい文化に定着させてきた横浜だからこそ、イノベーションIRを「大人の社交場」、新しい日本の文化として定着させ、持続可能な観光、MICE、インバウンド政策をコロナ後の世界に再構築することを私たちは目指すべきなのです。

 私たち横浜市会議員が前回の選挙で獲得した票数の合計は、973,264票(神奈川区を除く)。前々回は990,320票です。私たちの名前を書いて投票してくれた約100万人。そして375万人の横浜市民に私たちは責任があるのです。材料が揃わないのに、議会が議論を切り上げて住民投票をおこなえば、私は議会制民主主義の根幹を揺るがしかねない悪しき前例につながると思います。今後、IR施設の全容が明らかになりますが、懸念される課題にはどう対策が取られるのか、将来の横浜に本当に必要な施設なのか、議会、市民に対して説明責任が果たされつつ、事業が進むのか、議会での本格的な論戦はこれからです。ワンチーム、チーム横浜市会として、議会のルールに則り、横浜市の将来に向けて正々堂々と責任ある議論をぶつけ合って行こうではありませんか。

 一昨年の市会第3回定例会では、IRの実施方針案策定に向けた補正予算2・6億円の可決にあたり、私たち議会は8項目に及ぶ付帯意見を附けました。治安対策、依存症対策、人材登用、地域振興、市民理解の取り組みなど多岐にわたる付帯意見には「引き続き執行部と議会が議論を積み重ねながら進めていく」と明記されており、納得が得られない鵺のようなIRの計画しか出てこなければ、私たちは賛成しないと我が党の山下議員も明言しています。今回の臨時会を通じて改めてIRに対する関心、政治に対する意識が高まったと関係者の皆さまには感謝いたします。しかし、議会がすべき議論を中途で放棄しての住民投票には断固反対です。議場内のそしてモニターの前の横浜市会議員の皆さん、ボタンを押す前にもう一度考えてください。日本最大の基礎自治体の議員としての誇りと責任、選挙で一票を投じてくれた市民のことを思い、私たちとともに条例制定を否決し、これからも横浜市会で議論を尽くしていこうではありませんか。私たち自由民主党横浜市会議員無所属の会は、市第100号議案に議会人としての矜持を持って反対し、委員会での採決通りとすることを表明して私の討論を終わります。ありがとうございました。